市民講座「木造の魅力」も今年で20年目を迎え、今年のシリーズ最後の特別公開講義に、香川県で活躍されている戸塚元雄先生に。「本来の木の家づくりを広げるために」というタイトルにて講演をいただきました。すでに林業や大工、ユーザーを結ぶ木の家づくりを起こされ、全国で講演されている先生に、今回は特に建築家としての素顔を紹介してもらおうと、ご自身の作品について多くを語っていただきました。
先生は、ご自身の家づくりを振り返られ、モダニズム建築家たちの家づくりから学び、当時出現した「民家型構法」に影響を受けた第1期、「長炭の家」で家の原型を確立した第2期、「峰山の家」から始まった大工、林業家との共同態勢と構法の探求の第3期、NPO設立や嶺北規格材など、家づくりから林業への連携を運動として広げる第4期に分けてその時期毎のお考えを紹介されました。
後半は講演に駆けつけていただいた六車昭棟梁(香川県六車工務店)、鈴木有先生(金沢工大名誉教授)、木村忠紀棟梁(京都木村工務店)をパネリストに迎えて意見交流会を行いました。六車棟梁の念の入った構法や納まりの工夫に一同、感嘆しました。
京都の町家を手掛けている木村棟梁から、六車流の正方形の梁断面が構造的に有効であるが、ただ、京都ではいかつすぎて、見えるところに使いにくいという意見がありました。
鈴木先生から、戸塚先生について、個を主張する建築家ではなく、まっとうな職人の仕事に近い。その仕事はまさに伝統の民家のつくり方で、地域の材、地域の技、地域のゆるやかなルールを新たに構築しようとされている。また、戸塚先生の「共有の思想」もまた、かつての民家をつくってきた村人たちにあったものだ。戦後、この思想が近代的な産業化というものに変質した。伝統の共有を再生するのは困難だが、戸塚先生の共有はそれを産業化するという考え方に依っている。こうした民家に学ばれた戸塚さん、六車さんの家づくりは最高度に環境の時代の模範となるべきものであるというコメントがありました。
会場からもいくつか質問をいただき、さて、具体的にどうやって戸塚先生の家づくりを広げていくか、本題に関する意見交流となるところで、残念、時間となってしまいましたが、一見逆説的に聞こえる、家の構造を規格化し、工法を標準化することが、家の個性を消すのではなく、民家や町家にみるように、むしろ深い個性があり、魅力的で愛される建築となるのだということの理解が、この講演のもっとも重要な示唆であったように思いました。
(さのはるひと)
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