2月も半ばを過ぎて、現場では中塗り作業をどんどん進めています。左官仕事については、京都府左官技能専修学院という左官組合さんの学校のご協力をいただいています。すでに荒壁塗りから山本学院長さんには何度もお越しいただき、指導をいただいています。この日は二階の中塗りの指導をしてもらいました。
ここまでは何となく塗ってきたのですが、プロは出来上がりの質を問われるので、まずはチリ墨と言って、柱から壁面までの下がり寸法をきちんと揃えるために、墨を引くことから教わりました。寸法を採る定規もあるのですが、狭い場所で墨を打つ左官屋さん専門の墨坪があります。
写真ではちょっとわかりにくいですが、大工が使う墨坪よりも2回りくらい小さな可愛い墨坪で、糸口に細長いくちばしがついていますね。これで狭いところに糸を押さえて、ぱしんと墨を打ちます。やってみると、けっこう身体の使いようが難しいです。結局、学生君たちは慣れた鉛筆で線を引いていました。
チリ墨を引いたら、次は養生用の紙テープを貼ります。あまり馴染みのない赤い色の紙テープで、左官専門のすぐれものらしいです。テープを貼ったところで、中塗り土を捏ねて、まずは下塗りをします。それがある程度乾いたところで、仕上塗り(中塗り仕上)を二度塗りで塗って行きます。下地用の土も仕上用の土も基本的には同じ土ですが、仕上げ用は水をかなり加えてびしゃびしゃにしたもので薄く塗っていきます。
1階の座敷内はすべて仕上を左官学校の先生にお願いしています。もともとは左官学校の生徒さんたちでとお願いしたものですが、学校の授業は手一杯で、指導の先生方が来られて塗るということに。下塗りは長谷川さんが塗られました。とてもゆるゆると塗って行きますが、何と見事な壁になるので、驚いてみんなで見入ってしまいます。
仕上塗りは、柔和な長谷川さんではなく、繊細で厳しい山本忠和さんというこわい先生が来られるので、みなさん、それなりに注意してくださいと、学院長さんのお話が。ちょうどその頃、新聞で今年度の「名工」に選ばれた方と名前を知っていた方です。
ある日、そのこわい山本忠和さんが壁を塗っておられました。あたりに何とも言えぬ緊張感が漂っています。みんな作業もできず、ただ、じっと見つめておりました。何とも見事に壁が塗られて行きます。最小限の手数で仕上げるぞという気迫のようなものが感じられます。きびきびとしたスピード感のある塗り様は、やわらかなコテ使いの長谷川さんとは対照的と言ってもいいでしょうか。この日、現場の空気ががらりと変わりました。
「どんな仕事でも、やる時はおれは本気やねん。」と言い切る忠和さんは、何と、建築専門学校の卒業生(夜間部)でした。中塗り仕上にも、お寺の瓦下に使われていた葺き土を砕いて、塗り土に仕上げたものだと。とてもいい黒っぽい聚落土だと。すごく密実で、砕くのにもたいへんな手間がかかったのだと。ご配慮をありがとうございます。乾いたら、どんな風に上がるのか、楽しみです。
(さのはるひと)
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