去る7月14日、よしやまち町家にて「京北の木で家をつくろうネットワーク」主催で、林業家の和田善行さんを囲んで、今日の林業の現状や、和田さんが徳島の杉でおこなっている葉枯らし乾燥についてお話を伺う会をおこないました。同ネットワークの住吉座長の呼びかけにより、メンバーをはじめとして、学校にゆかりのある木の家の設計者さん、工務店さんなど20余名が集まりました。三澤文子さんも駆けつけて来られました。
さの:つい先頃発刊された「住宅建築8月号」で田中文男棟梁特集がありましたが、その中に、1983年、田中文男棟梁と現代計画研究所の藤本昌也氏が今日の木造住宅建築で主流となった「民家型構法の家」を始めた経緯が書かれています。藤本所長の下、実施設計を担当したのが、当時入所したての三澤文子さんだったのですが、その中に、それまで庶民の木造住宅に米松を使っていた棟梁に、 和田さんが日本の杉を使うよう申し出たとありますね。それ以後、民家型構法の家は国産の杉を生かすモデルとして登場することになりました。もう30年近く前だから、30歳そこそこです。そんな若い頃から活動を始めておられたんですね。
和田:当時はまだ杉は横に使えるとは誰も考えてなかった。梁は松だったんです。でも、その頃から、松は松食い虫にやられて減少しつつあった。松は車枝といって、同じところから何本も枝が出るので、節が同じところに来る。梁にしたときに、そこが致命的な欠陥となるわけです。杉はそこに行くと、枝は互い違いに出て、節は重ならない。柔らかいけれども、有利な点もある。
ただ、当時はまだ杉の強度データがなかった。それで林業試験場に杉の試験体を数百本も持っていって、強度を測ってもらった。
さの:和田さんはTSウッドという協同組合をつくられたけれども、和田さんの家自体はどのくらいの山を持っているのですか?
和田:私の家はざっと500haです。年間2500m3を出して、その内500m3をTSブランドとして出しています。製材をやっている仲間と一緒に組合をつくったので、私は製材はやらない。丸太と乾燥をやっています。最初は伐採指示書を山のチームに出して伐ってもらっていたけど、いろいろな材寸を考えて選木して伐採するのは大変だったので、途中から、システムを変えたんです。末口24〜32cmの材で、木によって6、8、10、12mというように、できるだけ1本の木から1本の丸太を出すという指示に変えた。
さの:葉枯らし乾燥は四国では普通に行われていた?
和田:四国の山は急峻で、道がない。架線集材でしか材を集められない。それも500mとか、1000mとかの長い距離を運ぶんです。そのために、葉枯らしで軽くする。木を山側に倒すのも、下に倒すと、衝撃で木が折れてしまうから。だから、われわれがやっている葉枯らし乾燥の流儀が全国どこでも同じにする理由はないと思います。
夏伐りと冬伐りと2回行うんですが、夏は乾燥が早いので、1、2ヶ月でいい。冬は雪が融けるまで置く。トラックで山から運ぶのにも、葉枯らしで軽くなるとその分、たくさん運べるので、環境にもいいでしょう。山から降ろした丸太は製材して、桟積みして天然乾燥させる。葉枯らし材はこの期間が短くて済む。でも、伐採から出荷まで1年はかかる。
葉枯らしは、いわば、半殺しなんでしょうね。木は伐られても、まだ生きていると錯覚して、光合成もしているし、水を上げようとするし、虫や菌がつかないように頑張っているんだと思う。
住吉:葉枯らしは葉が枯れるまでしますか?
和田:いや、しおれる程度までしかならないです。色が変わるまででは長過ぎると思います。
住吉:九州などでは葉枯らしではなく、丸太同士を重ねて桟積みにして乾燥させる(輪掛け乾燥)業者もいますね。あれはどうですか?
和田:風の通るいいヤードが山の中にあって、すごい量を積んで乾燥させて出しています。でも、皮付きの丸太のままで長時間乾燥させているので、虫が入る。大分製材で白太を削っているようです。僕の考えでは、平角材(梁)の強度は上下に年輪の詰まった白太の部分が来るからいいと思っているので、そこを落してしまうのは、もったいない。
さの:昨今、材木の価格が落ちてしまって、林業はたいへんな状況だと思いますが。
和田:TS ウッドをやり出した頃、すでに材木の値段が落ち出していて、危機感をもっていたんだけど、ここまで落ちるとは予想していなかった。かつて立ち木価格でm3当り2万円以上あったのに、今は 2500円ぐらいまで落ちてしまった。1/10くらいです。TS を始めた頃は、四国の杉は板が主だったけど、合板にやられ出した。それで2番玉から平角材を取るように考えた。元木は造作用にいい値で売れたから、2番玉の有効利用だった。でも、今は元木も同じくらい安くなってしまった。そこへ台風による被害などが出て、林業は本当に困ったことになってます。
この値段では、もう皆伐はできない。造林に費用が出せないから。間伐だけですね。一番いいのは伐らないことですが、収入がなくなるので、そうもいかない。国際的には、以前から ほぼ100$/m3なんですが、最近、150$ぐらいに上がって来ているようです。
さの:にもかかわらず、国産材が出回らない理由はなんでしょうか?
和田:山に木はあるのに、使えない。乾燥が問題です。乾燥材がすぐに出せるようになっていれば、事情はずいぶんよくなると思います。林業をめぐる問題として、1に、今はエネルギー転換が言われ、バイオマス利用が一つの手ですが、補助金は大規模工場にしか出ない。もっと細かなバイオマス利用のシステムとその促進が望まれます。2に、山主が自分の山がわからない。小さな山林所有形態
のままではどうにもならない。道もつかないし、山林経営をしようという気にもならず、放置されるだけです。3に、このような状態のまま自給率を上げて行けば、山は疲弊してくる。
さの:三澤文子さん、これから京都で活躍されることになるとのこと、おおいに期待しています。
三澤:木の家の設計者としてやって来ていますが、これからは個人の施主による個人住宅よりも、法人とか地方自治体による寮とか集合住宅のようなたくさん木を使うような仕事も仕掛けて行きたいと思っています。今日はこんな機会で 京都には京都の伝統ある林業もあるということも知りましたし、京北の林家の人たちと知り合えたのがとてもよかった。林業をめぐる状況は悪いことばかりでもないはず。魅力ある木造を元気で進めて行きたいと思っています。
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三澤文子さんには、学校の市民講座「木造の魅力」の12月10日土曜日13;30〜
ハートピア京都 大会議室にて講演をお願いしております。
「環境時代の木造住宅 〜地域の山の木を活用した長寿命の家づくり」
参加は無料です。どうぞお越し下さい。問合せ申込みは本校まで
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(写真1、2は住吉豊撮影)さのはるひと
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